KUWAI HANA

Between Emotion and the Laws of Nature

サイダー色の宇宙 ― 京浜運河 : 工場夜景

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約3分

ジャングルクルーズ

2009.08.16 / Yokohama

2009年8月16日、夏の夜。横浜・赤レンガ倉庫にほど近い桟橋から、一艘の船が闇の水面へと滑り出した。「ジャングルクルーズ」と呼ばれるその航路は、京浜工業地帯の合間を縫う運河をたどり、普段は決して足を踏み入れることのできない工場群の只中へと、僕たちを運んでいく。約一時間半。それは、夜景を「眺める」のではなく、夜景の内側にどっぷりと身を沈める時間だった。

通勤で横羽線を走る帰り道、進行方向の左手には、いつもこの工業地帯の灯りが広がっている。僕はその光を、勝手に「サイダー色の明かり」と呼んでいる。わずかに青みを帯び、炭酸の泡のように細かく弾けながら、闇の中に浮かぶ光。遠くから見ていたその光のただ中に、あの夜、僕は初めて入り込んだ。

水面から見上げる工場は、想像を超えて巨大だった。幾重にも絡み合うパイピングは、血管のように、あるいは植物の根のように、構造体の隅々へと伸びている。鉄とコンクリートで組まれた無機質な存在でありながら、そこには呼吸し、脈打ち、熱を循環させる生命体のような気配がある。無機と有機、その境界が夜の闇の中で溶け合っていく。

そして、光の届かない部分には、巨大な影が立ち上がる。輪郭だけを残して沈黙するその塊は、まるで宇宙の彼方から飛来し、ずっと昔からそこに佇んでいたモノリスのようだ。問いかけることも、答えることもなく、ただそこに在り続ける圧倒的な質量。

光は、波である。遠い恒星から放たれた光が時間と空間を越えて届くように、工場の灯りもまた、闇を揺らす波として運河を渡り、水面のさざ波に砕けて、無数の粒子となって僕の目に届く。揺らぎ、うねり、反射し、また揺らぐ。UNDULATION ―― 世界を形づくる根源的な「うねり」への関心は、この夜の光景の中にもはっきりと息づいていた。

闇は空白ではない。それは光を際立たせ、形を浮かび上がらせ、存在に輪郭を与えるための深い場である。暗闇とサイダー色の光、そして無機質でありながら生命を宿した巨大な構造体。そこに広がっていたのは、工業地帯という名の、もうひとつの宇宙だった。

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